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植物におけるDNAメチル化を介した転写抑制: RNA directed DNA Methylation

この講義の内容は下記のYouTubeサイト(再生リスト:Life Science Lectures for You ・動画による生命科学講義)で動画として視聴できます
https://youtu.be/XX準備中

1. 講義内容の概要

この講義では,被子植物や裸子植物に見られる24 nt siRNAを介したCH,CHG,CHHへのde novo 5mCの導入の経路を説明しています。また,5mCが誘導するH3K9me2修飾と,それが誘導する維持型DNAメチル化経路についても解説しています。

種子植物では,RNA directed DNA Methylationによりトランスポゾン,反復配列,ウイルスなどの発現を,それらの転写開始を阻止することで実現しています。

Key words:トランスポゾン,H3K9me2,siRNA, Pol II, Pol IV, Pol V, 5mC, 2本鎖RNA. 非標準的なRdDM, DRM2, MET1, CMT3, CMT2

2. DNAメチル化とヒストン修飾を介した安定な遺伝子発現抑制

真核生物では遺伝子の発現を長期安定的に抑制するために,DNAのCのメチル化(5-methylcytosine, 5mC)とヒストン修飾が共役的に働きます。

これらの修飾により,クロマチンの凝集が誘導されて安定なヘテロクロマチン構造が作られます。ヘテロクロマチン領域のある遺伝子には,RNA polymeraseがアクセスできないので,転写開始が抑制されます。

代表的な抑制型のヒストン修飾としては,植物ではH3ヒストンの9番目のアミノ酸であるリシン(K)が2個のメチル基を持つH3K9me2が,動物ではH3K9me3があります。

3. 被子植物において現在でも転移活性を持つトランスポゾン

ヒトやマウスのゲノムにおいて,現在でも転移活性を持つトランスポゾンは極めて限られています(LINE-1, SINEのAlu-familyの一部など)。それに対して,被子植物のゲノムには現在でも活発なトランスポゾンが数多く存在しています。

活発にcut-and-pasteで転移するDNA型のトランスポゾンとしてはAc/Ds, MuDR, Spm/En, Tam3, mPingなどがあります。また,copy-and-pasteで数を増やすRNA型のトランスポゾンとしてはTos17, Tnt1/Tto1, Onsenなどが知られています。

被子植物では,これらのトランスポゾンの転移を抑えるためにRNA干渉(RNA interference, RNAi)の他に,RNA directed DNA methylation (RdDM)という機構を進化させています。このRdDM経路はRNAi経路とよく似ています。いずれも2本鎖のshort RNAが生産され、アルゴノート(Argonaute)、ダイサー(Dicer)、RNA依存性RNAポリメラーゼ (RDRP)がその経路内で利用されています。

4. 外来遺伝子に対するRNA directed DNA Methylationの例

RdDMによって転写が抑制される対象は,トランスポゾンや内在性の反復配列だけではありません。遺伝子操作によって外部から導入された人工遺伝子 (transgene)についてもゲノム内での挿入位置やコピー数により,RdDMによって転写抑制が誘導されます。

植物においてRdDM経路を発見するきっかけとなった現象を紹介します。紫色のアントシアン系色素合成の律速酵素となっているカルコン合成酵素(chalcone synthase ; CHS)をゲノム内に導入して発現させたところ,図に示したような様々な花弁が生じました。紫色の花弁に白い部分ができたり,全体が白い花弁が生じました。

花弁の白い部分では,transgeneと,それに相同な塩基配列をもつ内在性遺伝子の両者に由来するmRNA が現象している事が明らかになりました。transgeneと内在性遺伝子の両方の転写が抑制されることで白色の花弁が現れます。そのため,この現象はco-suppressionと呼ばれました。

その後の研究で,co-suppressionが生じている細胞では,transgeneと内在性遺伝子の両方で5mCの蓄積が顕著に見られることが分かりました。また,このようなDNAのメチル化は24ntのshort interference RNA (siRNA)が重要な役割を果たしていることが分かりました。

この動画では被子植物や裸子植物が,トランスポゾン,反復配列,ウイルス,transgeneなどをRdDMにより,安定的に転写抑制をかける機構について解説をしています。

5. RNA interfernceによる翻訳抑制機構: 21 ntのsiRNAが関与する翻訳阻害

RNA directed DNA methylationはRNA interferenceを基に陸上植物の進化の過程で生まれた,比較的新しい機構だと考えられます。まず簡単にRNAiを復習しておきます。RNAiに関する詳しい解説は別の動画でしていますので,そちらを視聴してください。

ウイルスやトランスポゾンなどに由来するmRNAはRNA dependent RNA polymerase (RDRP)によって2本鎖化(dsRNA)され,Dicerによっておよそ21 ntの2本鎖断片が形成されます。そのうち,一方がArgonauteに組み込まれ,さらに幾つかのタンパクが加わってactiveなRISCが形成されます。RISC内のsiRNAは塩基の相補性により特定のmRNAに付着します。

6. RISC結合による標的mRNAの切断または分解促進

siRNAと標的mRNAの相補性が非常に高い場合にはmRNAの切断がおこり(左図),一部に相補性が無い配列が含まれている場合には切断は起こらず,mRNAの分解促進 (右図)などを通した翻訳阻害が起こります。

このようなRNAiによる翻訳阻害は,真核生物の広い種で見られるので,真核生物の進化の初期に獲得されてメカニズムだと考えられます。RNAiは,翻訳阻害を通して,宿主に悪影響を与えるトランスポゾンやウイルスの活性化を阻止する機構だと考えられます。

その後,自己遺伝子に対する翻訳阻害の機構としてmiRNAを介したRNAi経路が形成されたと考えられます。

7. Pol IIから進化した被子植物のPol IV, Pol V 

真核生物ではPol IIはタンパク質をコードする遺伝子を転写する通常のDNA dependent RNA polymeraseですが,これは12個のサブユニットで構成されています。一方で,種子植物にみで存在が確認されているDNA dependent RNA polymerase,Pol IVとPol Vも12個のサブユニットで構成されています。

この図では,3者で共通なサブユニットが7個(水色)、3者で異なるサブユニットが3つ(赤色),またPol IVとPol Vでのみ共通なサブユニットが2つ (オレンジ色)あります。このようなサブユニットの共通性からPol IVとPol Vは,種子植物の進化過程でPol IIから生まれたと考えられています。Pol IVとPol VはRdDM経路の主要な構成要素なので,RdDMは種子植物のみに見られます。従って,RNA directed DNA methylationの経路は被子植物や裸子植物では存在しますが,コケ植物やシダ植物では存在しません。

8. 種子植物に見られるCのメチル化

動物のゲノムに見られる塩基のメチル化修飾は,5’-CpG-3’配列のCにあるメチル化修飾(5mC)です。一方,種子植物のゲノムには,CHG (H=A, T, C, not G)やCHH配列内のCもメチル化修飾を受けることがあります。CGとCHGは2本鎖DNAを考えた場合,対称性のある配列ですがCHHは対称性の無い配列となります。

両鎖にメチル化修飾を持つDNA鎖が複製された場合でも,新たに合成された娘鎖にはメチル化修飾はありません(ヘミメチル化状態)が, CG, CHG配列では親鎖の5mCと対象な位置にあるCはメチル化維持酵素によってメチル化される場合があります。

一方で,親鎖のmCHHに対して,娘鎖では対象な位置にあるCは存在しないので,対象性を利用した維持型メチル化酵素による娘鎖のメチル化はできません。従って,CGやCHGに比べてCHHのメチル化はDNA複製に伴い失われ易いという傾向があります。

CHH配列のメチル化には常にde novoなメチル化の誘導が必須です。

9. 被子植物の配列contextによるメチル化頻度の比較

この図ではシロイヌナズナとイネにおけるCG, CHG, CHHのメチル化頻度を示しています。いずれの種でも,CGのメチル化頻度が最も高く,CHHのメチル化率が最も低くなっています。遺伝子内や,その周辺配列に5mCが高頻度で存在すると,

転写開始が抑制されます。しかし,5mCがDNA配列中に存在していても転写を開始したRNA polymeraseについて,転写速度が減速したり,途中で停止したりすることはなく,いったん転写がスタートすれば5mCがないDNA鎖と同様に転写することが可能です。

10. DNAメチル化による転写開始抑制のメカニズム

5mCが遺伝子の転写開始を抑制するメカニズムは主に2系統あると考えられます。

1)転写因子(TF)の結合が阻害される

プロモーターやエンハンサーの転写因子結合モチーフがメチル化されることで、転写因子(TF)の結合親和性が低下することで,転写開始頻度が下がるという機構です。

2)DNA中の5mCをマーカーにして,ヒストン脱アセチル化酵素やヒストンメチル基転移酵素がリクルートされ,H3K9me2のようなヒストン修飾が起こる。それにより,ユークロマチンがヘテロクロマチン化する。そのため,Pol IIや転写開始複合体がDNAにアクセスできなくなる。

これらの2つの要因のために転写の開始が阻害されると考えられます。

11. 単純化したRNA dependent DNA Methylationの経路

トランスポゾンや反復配列をコードするDNA配列には,あらかじめ5mCが低頻度ながら存在している場合が多くあります。このような遺伝子は通常のPol IIではなく,Pol IVの転写によりmRNAが作られます。このmRNAはRNA dependent RNA polymerase 2 (RDR2) により2本鎖RNA(dsRNA)に変換されます。このdsRNAは,Dicer-like 3 (DCL3)によってShort (or Small) interfering RNA (siRNA)とよばれる24ntの短い2本鎖RNAにぶつ切りにされます。2本鎖のうちの一方がArgonaute RISC Component 4 (AGO4)に取り込まれます。

一方で,Pol IVが転写したのとほぼ同じDNA領域を,Pol Vが転写することで足場RNA(scaffold RNA)が形成されます。このscaffold RNAに,AGO4がsiRNAの塩基相補性により結合します。そこにde novo DNA methyltransferaseの一種であるDomains Rearranged Methyltransferase 2 (DRM2)が呼び込まれます。DRM2はCG、CHG, CHHの区別なくsiRNA標的配列の±200〜500 bpのCにメチル化修飾を施します。

これが,24nt siRNAを介したde novo DNA methylationの概要です。siRNAが塩基の相補性を利用して標的DNA配列に付着することはありません。scaffold RNAに付着し,そこにDNAメチル化酵素を呼び込むことで,周辺配列のDNAメチル化が行われます。

12. 詳細なRNA dependent DNA Methylationの経路

もう少し詳しいRdDMの経路をこの図で説明します。トランスポゾンや反復配列なそ,5mCを持つ遺伝子は,Pol IIではなくPol IVで転写されることがあります。このPol IVで転写されたmRNAはRDR2によってdsRNAに変換されます。このdsRNAはDCL3によって,24ntのsiRNAに切断されます。このsiRNAの3’末端はHEN1により2’-OH化 (2′-O-methylation)されることで安定化します。

AGO4に取り込まれたsiRNAの一方が,Pol Vが転写したscaffold RNAに塩基相補性により付着します。

またPol V の転写を助ける因子として,SPT5I (Suppressor of Ty insertion 5-like, Pol V専用転写伸長因子)もPol Vに付着しています。RDM1 (RNA-DIRECTED DNA METHYLATION 1)はde novo DNA methyltransferaseであるDRM2をAGO4に呼び込むのを助ける小さなタンパク因子(200 aa)です。DRM2はCG、CHG, CHHの区別なくsiRNA標的配列の±200〜500 bpのCにメチル化修飾を施します。

このようにして多くの5mCが導入されることで,Pol IV/Plo Vで転写された領域はヘテロクロマチン状態をとります。そのため,Pol IIで転写されなくなります。これが標準的なRNA dependent DNA Methylationによる転写抑制の経路です。RNA interferenceの場合には,21nt siRNAがacitveなRISCを形成し,siRNAと相補鎖を持つmRNAに付着または切断して翻訳阻害をするのと対象的です。

13. 維持型DNAメチル化酵素によるヘミメチル化鎖内CGのメチル化

5mC修飾を持つDNAが複製されると,親鎖がメチル化を持ち新生鎖 (娘鎖)内のCにはメチル化修飾がないヘミメチル化状態となります。

CG配列の場合は,親鎖の5mCGの対象点にある新生鎖内のCGに関しては,維持型DNAメチル化酵素(MET1)が作用してメチル化を導入します。このMET1による新生鎖へのメチル化効率は比較的,高いとされています。

14. ヘミメチル化鎖へのメチル化:CHGとCHHの場合

CHG配列の場合は,親鎖の5mCHGの対象点にある新生鎖内のCHGを認識してメチル化を導入する維持型DNAメチル化酵素はMET3ですが,この酵素はヒストンにH3K9me2の修飾がないと,ほとんど活性がありません。

また,CHHには対象性がないため,新生鎖内の未修飾のCを修飾するような維持型酵素は存在しません。

15. H3K9me2ヒストン修飾を介した新生鎖内のメチル化修飾

5mCを認識してSUVH4/5/6などのヒストンメチル基転移酵素が結合し, H3ヒストンにH3K9me2の修飾を付与します。このヒストン修飾により,CHGに対する維持型メチル化酵素であるCMT3が活性化されて,新生鎖内のヘミメチル化CHGがメチル化されます。

また新生鎖内のCHH配列に対しては,H3K9me2の存在によりCMT2が呼び込まれメチル化修飾が行われます。

16. RdDMによる新規5mCの導入と維持の機構

CG配列についてはH3K9me2修飾がなくても,維持型のDNAメチル化酵素MET1によって娘鎖の対象の位置にあるCはメチル化されます。

一方,CHG, CHHについては,ヒストンメチル化酵素SVHによりH3K9me2修飾が導入されることで,DNAメチル化酵素であるCMT3, CMT2が新生鎖内のCHG, CHHにメチル化修飾を導入します。  

一方でscaffold RNAに結合したde novo methylase DRM2により,±200〜500 bpのCにCG, CHG, CHHの区別なく5mCが導入されます。

17.新規トランスジーンなどに対するPol IV, Pol Vを必要としないRdDM

Pol IVやPo Vで転写されるトランスポゾンや反復配列などには,すでに5mCやH3K9me2が低頻度ながら見られます。これらが目印となり,Pol IVやPo Vが呼び込まれてきます。しかし,そのような目印を持たない新たに転移してきたトランスポゾンや,遺伝子操作により外部から加えられたtransgene,感染によりゲノム内に挿入されたウイルスDNAに対してもRdDMが作用する場合があります。この場合,

1) Pol II が遺伝子を転写

2) そのmRNAが RDR6により2本鎖RNA化され,

3) DCL2/4 によって24 nt siRNA化される

4) Pol II (またはPol V) 転写物 scaffold RNAとなり、AGO-siRNA複合体が結合

5) DRM2 が呼び込まれることで配列conrtextにかかわりなくde novo DNAメチル化がおきる。

このようなPol IVもPol Vも必要としないRdDMの経路は非標準的なRdDM経路 (Non Canonical RdDM Pathway) と呼ばれます。DNAがメチル化修飾されることで,ヒストンメチル化酵素が呼び込まれH3K9m2のヒストン修飾が起こります。このような非標準的なRdDMにより,遺伝子に5mCやH3K9me2修飾修飾が持ち込まれると,その遺伝子はPol IV/Pol Vによる標準的なRdDMの対象になります。

18. 標準的なRdDMと非標準的なRdDM経路のまとめ

新しいトランスポゾンがPol IIにより転写されると、その一部はRDR6によってdsRNAに変換され、DCL2やDCL4により21〜22 nt siRNAが生成されます。これらはAGO1を介してPost Transcriptional Gene Silencing (PTGS)を誘導しますが、このdsRNAの一部はAGO2に取り込まれます。

活性化されたAGO2は,Pol V (またはPol II)の転写物であるscaffold RNAに付着し,de novo DNAメチル化酵素であるDRM2を呼び込みます。DRM2が5mCを周辺配列に導入します。

この初期メチル化がPol IV /Pol Vをリクルートし、標準的典的なRdDM経路を活性化します。標準的なRdDM経路の場合,siRNAは24 ntが作られます。

19. siRNAの短距離および長距離シグナル伝達

24 nt siRNAは師管を介して長距離移動でき、受容組織で標準型のRdDMを異所的に誘導することが実験的に実証されています。

この現象は接ぎ木、ウイルス防御、世代間情報伝達など植物の多様な生理現象に関与しています。こうした全身的なRdDMの拡散は、ストレス応答情報を生殖系列へ伝達し、次世代での耐性に寄与しています。

またsiRNAは原形質連絡(プラズモデスマータ)を介して近傍細胞間に移動できることも知られています。

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